4年生の系統講義で、脳神経外科で取り扱う一通りの疾患については一応の知識を持ったことと思うが、それはあくまでも観念的な知識としてのみであると思われる。病棟で臨床実習(BSL)を行うようになって初めて患者さんに接し、生きた人間の悩みとしての疾患に直面することとなる。そして同じ名前の疾患でも、患者さん個々人によって、発症の仕方や症状の進行状況、検査所見などが微妙に異なり、必ずしも教科書通りではないことを実感するであろう。さらに、我々が治療の対象とするのは「患者さん」であって、「疾患そのもの」ではないことを実際に理解するであろうし、そのためには、患者さんの生活環境や内面の心理までも配慮しなければならない。こ� ��ような体験をすることにより、諸君も生きた医療の担い手としての医師の第一歩を踏み出すこととなる。
一人一人の患者さんは、それぞれの人生を歩いてきた生身の人間であり、それぞれの家族がいることを決して忘れないで欲しい。患者さんは諸君の実習の単なる材料ではない。むしろ諸君に医学や医療について教えてくれる「先生」として接して欲しい。臨床実習で諸君が行う医療面接や診察は医療行為であり、諸君は医師として行動しているのである。したがってそこには医師としての責任と義務が当然伴ってくる。実際の責任は我々教員側にあることは勿論であるが、諸君の言動も診療に影響を及ぼすものであることを自覚して欲しい。また、診療上知り得た患者さんの秘密は、絶対に他に漏らしてはいけないという「医師 の守秘義務」は諸君も負わなくてはならない。
言うまでもないが、臨床実習の際には、いわゆる「茶髪」、「ロンゲ」、「鼻ピアス」、「極端な色のマニキュア」などは好ましくない。これは個人の趣味や個人の自由などとは別の次元の問題である。医療は対人関係を重視するので、患者さんやその家族の一人でも不快な感情を持つような身なりをすることは、医療人として失格である。嗅覚も重要な診断手段であり、香水やオーデコロンは診療の妨げになることがある。手術室のキャップやマスクからはみ出る長髪や髭は周辺を不潔にしやすく、爪が伸びていると触診、指診が出来ない。白衣の前ボタンをかけずにスリッパで闊歩するなどは論外である。
【2週間の臨床実習プログラムについて】
"痛みの強さ"
1)5年生での脳神経外科臨床実習は2週間しかなく、過去の臨床実習で廻ってきた諸君の先輩達の感想では、「2週間はあっという間に過ぎ、もっと身を入れてやればよかった」というのが多かった。6年生でのクリニカルクラークシップで脳神経外科を選択する学生は少ないと思われるので、諸君が将来脳神経外科医にならないかぎり、直接脳神経外科の患者さんに接するのは、一生のうちこの2週間だけである。したがってこの2週間を有効に活かせるように努力して欲しい。往々にして、病棟のカンファレンスルームで"一生懸命に"、"まじめに"医学書や文献を読んでいる姿を見かけるが、そのようなことは夜自宅ででも出来るし、ある程度の知識はこれまでの講義で得てい� ��はずである。臨床実習では出来るだけ多くの患者さんに、出来るだけ多くの時間を割いて接することこそが臨床実習の本来の目的である。
2)学生各自を病棟主治医の一人に配属する。臨床実習期間内は原則として配属主治医と行動を共にする。時間外の救急症例に対しても主治医と共に対処することが望ましい。学生は、配属された主治医が担当する全ての患者さんの事実上の副主治医となり、主治医と病棟医長の指導の下に医行為を行う。患者さんに医療面接して診察し、術前術後の状態や変化を経時的に観察し、カルテに所見を記載する。ただし、患者さんに対し決して独断で説明や医行為を行ってはならない。
3)2週間の実習スケジュールを別表に示す。毎日の開始は朝7時30分である。水曜以外の毎朝7時30分から病棟医� ��回診を行っており、初日には附属病院6階東病棟ナースステーション前に集合すること(時間厳守)。症例カンファレンスは、病院6階の脳神経外科カンファレンスルームで行う。初日の症例カンファレンス終了後病棟医長が病棟内のオリエンテーションを行い、諸君を各主治医に配属する。水曜日の症例カンファレンスは朝7時30分から開始する。
4)17時以降のカリキュラム時間外に行われる神経放射線カンファレンス(放射線科、病院病理との合同)、医局の各種カンファレンス、期間内に学外で行われる関連研究会にはできるだけ出席することが望ましい。医局抄読会や、随時行われる学会演題発表予行にも出席して良い。
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5)月曜と水曜との外来日には、適当な新患が来診されれば、諸君に診察して診断まで付けてもらう。その上で教授か助教授が同じ患者さんを診察し、諸君と意見を交換する(外来ポリクリ)。教員に外来診療の余裕があれば、諸君の医療面接や診察の仕方を実地指導することもある得る。しかし、当科では比較的外来患者が少なく、必ずしも外来日に学生実習に適した新患の来院があるとは限らない。そのような時には教員の外来診療を見学するか、あるいは病棟実習を行って欲しい。
6)旧国立新設医大の附属病院では、どうしても小回りの効く救急医療態勢が取りにくいので、脳血管障害や神経外傷などの急性期救急疾患は比較的少なく、これらの教育上重要な疾患につ� �ての実習を補うため、市中の潤和会記念病院脳神経外科(宮崎市大字小松1119、Tel:47-5555)において学外実習を行なう。火曜日に全日、同病院においてこれらの疾患の急性期からリハビリテーションまでの医療を体験実習する。指導医は河野寛一副院長(脳神経外科部長兼任)(元本学脳神経外科講師:脳神経外科専門医)。同病院での実習当日は、午前8時に同病院(新病院)2階の小会議室に集合すること(時間厳守、小会議室の場所は病院受付で確認すること。病院までの地図はこの小冊子の最後に掲載し、また大学の脳外科病棟カンファレンスルームにも掲示してある)。
7)木曜、金曜の手術日には、朝8時の患者さんの搬入とともに手術室に入って見てもらう。担当症例の手術の際には、術式によっては、担当学生に第二助手 として手術に付いて貰うことがある(特にクリニカル・クラークシップの6年生が不在の時)。手術室実習の経験が少ないグループには、清潔観念について一応の指導はするが、室内では清潔区域に絶対に触れないようによく指示に従って欲しい。手術室での指導は病棟医長あるいはその他の教官が行う。手術開始までのいろいろな手順、手術台上での患者さんの体位等にもそれぞれの意味があり、手術そのものだけではなくこれらも十分に見て欲しい。多くの手術が手術用顕微鏡を用い、術者と同じ視野がビデオカメラでモニターされるので、手術室内のモニターテレビで見学し、分からない点は遠慮なく質問してよい。余裕があれば、直接手術用顕微鏡を覗いてもらうことがある。
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8)学生は実習期間内の担当患者さんの経過を毎日診察して、その所見とそれに対する考察を実際のDr.カルテに記入する。現在電子カルテに移行中であるが、紙のDr.カルテ(青カルテ)も併用しているので、学生はそちらを使用する。記入の仕方は、先ず診察時刻を記載し、次にPOS( problem oriented system )に沿って、SOAP、すなわち、Subjective:患者さんの訴え、Objective:他覚的所見、Assessment:それらから導かれ判断される患者さんの状態、Plan:それに対してどう対処すべきか、の順に記載すれば漏れがない。記載の最後に自分のサインを必ず入れ、記載内容を主治医にチェックしてもらうこと。サインは実際に記載した学生の姓名を単記すること。連名は不可。担当症例のカルテ記載内容は、随時指導医がチェックし評価する(臨床実習の評価に加味する)。
9)症例カンファレンスに於いては、主治医の指導の下に担当症例のプレゼンテーションを学生自ら行ってもよい(特にクリニカル・クラークシップの6年生が不在の時)。病歴や重要データは暗記しておき、プレゼンテーションは原則としてカルテを見ずに行うこと。脳神� ��外科では回診の際にもカルテやフィルムを携行しない。
10)実習期間内の患者さんの診療スケジュールを配属主治医に確かめ、脳血管造影、脊髄造影、CT,MRI,脳波、RI検査、その他の諸検査、ならびに病棟内で行われる腰椎穿刺や髄液細胞数算定などの検査は、主治医とよく連絡をとり、検査の現場に立ち会い、検査の結果だけでなくその過程をも見ることが望ましい。髄液細胞数算定などの非侵襲的検査は実際に学生諸君にやってもらう。
11)疑問があったら教室の誰にでもよいから遠慮無く質問すること。直接教えてくれることもあり、適当な参考書を指示することもあろう。黙っていても教員が何から何まで教えてくれるわけではない。何をしてよいのか分からぬといってただじっと待っていたり、口を開� �てスプーンで食べさせてくれるのを待っているような受け身の臨床実習でなく、自分の手で食べ物を奪い取って食べるような積極的な姿勢で2週間を過ごして欲しい。主治医や病棟医長、指導医も感情をもった人間であるから、学生が主体的で積極的な学習態度を示せば、それに応ずる意欲も湧いて来るというものである。
12)手術をビデオに撮ったものが多数ある。特に受け持った患者さんが術後の患者さんであれば、その術中のビデオがあることが多いので、主治医に連絡して十分に利用し理解を深めること。
13)カルテ、フィルム等は自由に見てよいが、それらを病棟からカンファレンスルーム等に持ち出す時は、主治医の許可を得るか病棟の所定のホワイトボードにその旨を板書し、使用後は必ず所定の場所に戻すこと。他の患者さんのフィルムと混じらないように特に注意して欲しい。
14)神経学的診察においては、診察器具は原則としてカンファレンスルーム内に用意してある学生用のものを使用すること。やむを得ず病棟・外来の診察器具を借用する際は、丁寧に取り扱い、必ず所定の場所に戻すこと。実習の最後に学生用診察器具を点検し、紛失した物がないか確認すること。
15)病棟カンファレンスルームを実習期間内の諸君の居室とするが、この部屋は時間外(夜間、土曜、日� ��、祝日)も使用してよい。急患・救急手術は往々にして時間外に多く、待機しておれば貴重な経験をすることがある。しかし言うまでもないことであるが、食べ物の殻やジュースの空き缶を放置したり、ドアを開けっ放しにしたり、電灯やエアコンを付けっ放しにしたりしないこと。カンファレンスルーム内は禁煙である。整理整頓、火の用心に心して欲しい。学生用のロッカーを室内に備え付けているので利用してよい。
16)二週目の最後の日(金)の午前中に臨床実習の評価を行う。他学生と指導医の前で、担当症例(2週目の水曜日に病棟医長が呈示症例を指定する)を症例カンファレンスの要領で呈示し、グループで討議し、質問に答えて貰う。学生の一人が指導医に向かって「症例発表」している間に、他の学生は自分の� �症例発表」の準備をしているような「症例発表会」であってはならない。症例呈示に使用する画像や資料は、順序よく呈示できるように予め準備しておくこと。当日手術予定の患者さんが当たった場合は、前日中に主治医とよく相談し、手術室にフィルムを全部持って行かれないように、症例呈示に必要な画像や資料を確保しておくこと。担当症例(必ずしも「疾患」についてだけではない)に対する理解度やプレゼンテーションの技術・能力を評価する。症例呈示は正確な医学用語を用い、正確な内容を、聞き取りやすく正確に表現し、相手に正確に理解して貰えるように心すること。
これらと共に、病棟実習中の積極性、態度や出席率、手術室実習や外来ポリクリ、回診時の質問への応答内容、カルテ記載の内容、学外実習の� ��価等を総合評価の対象として重視する
17)限られたカリキュラム時間内での実習には限度がある。春休み、夏休み等の休暇中に病棟実習をすることを大いに歓迎する。また普段から放課後などに、脳神経外科の病棟、医局や研究室に出入りすることも熱烈に歓迎する。
【おわりに】
中枢神経系の解剖学用語(できればラテン語よりも英語)は、学生諸君と指導医が discussion をする際の最低限の共通語として必要である。また脳や脊髄の立体的な構造や、その中を走る神経線維の走行の知識は、患者の症状を理解する上でぜひ必要なので、実習に入る前にもう一度解剖学の教科書を見直しておくこと。限られた時間で脳神経外科の臨床実習を行ってもらうので、基礎的知識の復習に時間を費やす余裕はない。
(文責:脇坂信一郎)
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